ETV特集「武器ではなく 命の水を 〜医師・中村哲とアフガニスタン〜」9/10放送
(GALAC12月号掲載の月間賞の選評)
砂漠を緑豊かな農地に変貌させたことが一望できる丘に凜然と立つ医師・中村哲、その人を1998年から追い続けた秀作だ。9.11テロがあった2001年、アフガニスタンは地元の長老が数世紀なかったと言うくらい長期間のひどい干ばつに襲われ大量の難民が生まれた。タリバン政権が崩壊して難民が戻れる状況になっても彼らが耕作できる農地はなかった。
中村医師は「診療所を100個つくるよりも用水路を1本つくった方がどれだけみんなの健康に役立つことか」と白衣を脱いで建設に乗り出す。土木の専門家でない中村は、重機がない200年前にできた故郷筑後川にある山田堰を参考にする。さらに鉄線と石があれば地元の人たちだけで補修できる「蛇籠」という日本の伝統的な治水技術で護岸も整備した。
着工から1年の2003年、マルワリード用水路のほんの一部1.6kmができたところに、テストで水を流したときのうれしそうな中村の顔がいい。そしてさまざまな試行錯誤をくり返してついに2010年、クナール川からガンベリ砂漠まで総延長25kmの用水路が完成する。しかし番組は単にこの記録ではなく、中村の平和への考え方やその地になにをどう残すかを訴えていて、高評価につながっている。
用水路ができて治安がよくなったと実感している農民は「人は忙しく仕事をしていれば戦争のことなど考えない」と言う。中村も「人が助かる結果として、争いごとが少なくなり、平和への一つの道になる」「戦をしている暇はない」と言う。
いまや中村が関わった用水路は9ヵ所にもおよび、60万人の命を支えているが、それでも全土のわずか2%。しかも現在、イスラム過激派組織ISが勢力を拡大している地域は干ばつのひどい地域と重なっている。そこで、今後はマルワリード用水路沿いに専門家を育てる職業訓練校を設立しようと計画を練っている。蛇籠でできた護岸の石の間にしっかり根を張り、彼の地の将来を思い遣っている医師と、その姿を長く丹念に追った番組制作者の志を多としたい。(福島俊彦)
砂漠を緑豊かな農地に変貌させたことが一望できる丘に凜然と立つ医師・中村哲、その人を1998年から追い続けた秀作だ。9.11テロがあった2001年、アフガニスタンは地元の長老が数世紀なかったと言うくらい長期間のひどい干ばつに襲われ大量の難民が生まれた。タリバン政権が崩壊して難民が戻れる状況になっても彼らが耕作できる農地はなかった。
中村医師は「診療所を100個つくるよりも用水路を1本つくった方がどれだけみんなの健康に役立つことか」と白衣を脱いで建設に乗り出す。土木の専門家でない中村は、重機がない200年前にできた故郷筑後川にある山田堰を参考にする。さらに鉄線と石があれば地元の人たちだけで補修できる「蛇籠」という日本の伝統的な治水技術で護岸も整備した。
着工から1年の2003年、マルワリード用水路のほんの一部1.6kmができたところに、テストで水を流したときのうれしそうな中村の顔がいい。そしてさまざまな試行錯誤をくり返してついに2010年、クナール川からガンベリ砂漠まで総延長25kmの用水路が完成する。しかし番組は単にこの記録ではなく、中村の平和への考え方やその地になにをどう残すかを訴えていて、高評価につながっている。
用水路ができて治安がよくなったと実感している農民は「人は忙しく仕事をしていれば戦争のことなど考えない」と言う。中村も「人が助かる結果として、争いごとが少なくなり、平和への一つの道になる」「戦をしている暇はない」と言う。
いまや中村が関わった用水路は9ヵ所にもおよび、60万人の命を支えているが、それでも全土のわずか2%。しかも現在、イスラム過激派組織ISが勢力を拡大している地域は干ばつのひどい地域と重なっている。そこで、今後はマルワリード用水路沿いに専門家を育てる職業訓練校を設立しようと計画を練っている。蛇籠でできた護岸の石の間にしっかり根を張り、彼の地の将来を思い遣っている医師と、その姿を長く丹念に追った番組制作者の志を多としたい。(福島俊彦)